太田裕美、「茶いろの鞄」 (1976)

B面ネタ続きになりますが、「赤いハイヒール」のB面曲だった「茶いろの鞄」を取り上げてみます。

「赤いハイヒール」は「木綿のハンカチーフ」の次作として発売された作品です。「木綿のハンカチーフ」では上京者は男性・地方に留まったのは女性というのが語り部の役割分担でしたが、「赤いハイヒール」ではこの性別が逆転します。二匹目のどじょう作戦が明確な曲で、余勢を駆ってそれなりに売れましたが、今聴いてみると冴えのない曲です。

それに対して、このB面曲はなかなかすごい。ソフィスティケイトされた運びのメロディーの運びは、この時期の歌謡曲とは明らかに一線を画する秀逸なものです。コード進行には、ジャズの要素がちょっと入ってるでしょうか?

たとえば「木綿のハンカチーフ」でのストリングなどのような、いかにも歌謡曲歌謡曲したアレンジは今となっては堪え難いのですが、この曲のアレンジは、なんとか現在でも我慢出来る程度の仕上がりになっています。イントロや間奏での、フルートのフレージングはかなり自由で、この曲の雰囲気をかなり決定づけています。荒井由実の「あの日に帰りたい」とか、丸山圭子の「どうぞこのまま」といった、ボサノバっぽい曲が流行った時期に重なる、というのもポイントかもしれません。

一方、不良ロック少年と思いを寄せる少女、そんな時代を振り返るという歌詞は「青春のしおり」あたりと共通するものなのですが、松本隆さんの定番ワード「路面電車」が登場するあたり、それはまぎれもなく風街ワールドです。ディープな地方生活経験のない松本さんが書く田舎は、どこか薄い気がします。やはり、都会に徹した詞にこそ松本さんの真価があるように思います。

そして、裕美さんの歌です。彼女は時として、元気に歌いすぎて曲をダメにしてしまうという失敗をしでかしていたように思います。特にそれは高音域を張りすぎてしまう、という点に現れるのですが、この曲ではうまくファルセットで抜いて、いい意味での力の抜けた雰囲気を醸し出しています。

なので、実はこの曲が太田裕美の最高傑作、というのが今日の私の結論です。

YouTubeに音のみありました↓