鈴木祥子、「鈴木祥子」 (2006)

デビュー18年目にしてのセルフタイトルアルバムで、40歳を過ぎての初作品。アルバムのために曲を書く、というのではなく、書いた曲をライブでやっていって、いいものをアルバムとして出す、というスタイルを取ったらしい。今までのアルバムは、一枚一枚の中でもバラエティ豊かというか、すごく音楽性の幅が広いことをみせつけていて、それは時として器用貧乏っぽい印象を与えることもあったのだけれど、本作は至ってシンプル。けだるさというか、全力疾走から一息入れたような感じを受けるし、それが決してマイナスに作用していない、等身大の姿を映し出しているかのようなところが非常に好きだ。

一番好きなのは、8.「忘却」。Neil Youngの影響を強く感じる音。
「そんなに頑張っちゃって何がしたいの?悪いけどそこには何にもないよ」
なんて、ぐさりと来る歌詞なのだ。アコギ一本での弾き語り映像がYouTubeにあるけれど、これも素晴らしい出来。

3. 「何がしたいの?」は、「見失い感」とでも書いておこうか、壮絶な曲だ。この行くあてのない感じの歌詞は、ここ数年の祥子さんの重要なモチーフの一つなのだけれど、ぐさっと来る一曲。

5. 「契約 (スペルバインド)」、もいい曲だ。わかりやすいメロディ、平易な言葉で語られる歌詞、単純そうに思えて、奥行きのある世界がそこにはある。

10. “Blondie”も、すさまじさを感じる曲。男性リスナーには受けが良くないらしいのだけど、私は好きだなあ。
「私を一人にしないで。一人にするなら愛さないで。」
という歌詞は、当初は「一人にするなら殺して」というものだったのではないかと、私は疑っている。ピアノの弾き語りに絡み付くエレキバイオリンが非常に効果的。

その他、洋楽を消火しきった人じゃないと書けない2.“Love is a sweet harmony”や4. “Passion”が素晴らしい。11. 「道」は、ピアノのイントロがもろにCarole Kingの”So far away”だ。歌詞のモチーフは、”River’s End”と共通みたい。

一方、6.「ラジオのように」の再演・再収録は、ちょっと意味がわからない。確かにこのテイクの方が僕としては好きなのだけれども、あえてオリジナル盤に再収録するほどの出色でもないかな、というのが個人的な感想。

何曲かでエレキバイオリンを弾いているROVOの勝井佑二さんの動向には個人的に興味があった。彼は高校の一期下で、直接話した記憶はないが、友人の友人くらいの関係だったので知ってはいた。自主制作盤やらライブやらの告知を校内に張りまくる有名人だった。「こんな田舎でやってても限界あるだろうに」などと思っていたのだが、本当に影響力のあるミュージシャンになってしまったんだなと感動。80年代初頭の売れたロックのスタイルを消化しきった感のある祥子さんと、売れ線のロックなんてまるで聴いていそうになかった勝井さんが一緒に仕事して、壮絶な一枚を仕上げてるところが、ある意味とても面白いなあ。

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[2010/02/28改訂]