Corrinne May, “Fly away” (2002)
とにかく素晴らしい作品。ピアノ弾き語りをメインとするシンガポール出身の女性SSWで、声質と曲がひたすらに美しいのだ。この作品は2002年の発表で、当時日本でも発売になったが、私は気づいていなかった。最近二作目の日本発売に伴って取り扱い先を変えての再発売となったのでこの作品に出会ったが、知らずに過ごした4年間を悔やんでしまう。Carole King的な王道を行く人だとのコメントを多く見かけるが、最近の人では誰に一番近いだろうかと考えると、Beth Nielsen Chapmanではないかと思う。声質でふっと思い出したのは宇多田ヒカル、高めの声域でちょっと似ていることがある。
一番はまってしまった曲が10. “Will you remember me”だ。ありがちな美しいスローバラードっぽいのだが、コード進行と曲の展開に仕掛けがたくさんある。曲の頭から、ピアノ+シンセで薄いながらも広がりを感じさせる音世界をまず作る。声質にとにかく引き込まれてしまう。局の後半が圧巻。思わぬタイミングで、テンションのかかったコードがぽんと入ってくる(augumentかな?)。最後の”will you remember me? remember”とひたすら続くリフレインがものすごい。これのどこがすごいの?と思う人が多いだろうというのは想像つくのだが、おそらくこれは80年代初頭を体験した人間の郷愁に訴えかけてくるものがあるからだろう。
タイトル曲の1. “Fly away”も、ものすごい曲だ。ピアノ一本でじっくり最後まで聞かせきるバラード。上と違って音に仕掛けはないんだけど、声質と歌唱力を堪能すべし。高音域まで、力むことなくきれいに出し切れるこの人は、いったい何者なのでしょう?“2. Same side of the moon”は、生ギター+シンセがバックの曲。聴かせてくれます。5. “If you didn’t love me”, 9. “Walk away”, 11. “Journey”もいいピアノバラードだ。全部は書ききれないが、外れ曲がないアルバムで、「明かりを落とした部屋で、正座してスピーカーに対峙して聞きましょう。」とそう言いたくなる一枚。
しいて難を言えば、きれいすぎる、あぶないところがない、ということだろうか。音自体に、どこかとげとげしたところとか、どろどろしたところが、まったく感じられないのだ(歌詞はそうでもないかも)。ソングライターとしては、Joni MitchellとかRickie Lee Jonesの域には達しないな、と感じるところはそういうところに原因がありそうだ。決して批判してる訳ではないのだ。私の場合、この二人と比べてしまいたくなる女性シンガーなんて、滅多にいない。どうしても比べたくなってしまう、という時点で、私にとっては凄い人なのです。