高校時代、地元札幌の民放局が深夜の映画番組のテーマ曲として“Little bit more”を使っていた。夕暮れのヨットハーバーかなんかのコラージュっぽい「動かない映像」に、この曲がかかっているという芸のないものだったが、なぜか記憶から離れないのだ。あと、このアルバムから想起されるものといえば、川原由美子の漫画かな。「フュージョン」という言葉よりは、「クロスオーバー」という言葉がしっくり来るように感じる一枚。
増尾さんは燦燦と輝くキャリアを持つジャズギタリストだが、このアルバムではメロディメーカーとしての顔を強く出している。バックの面々は、テクニックばりばりのフュージョンを展開しているのだが、増尾さんは技巧を抑えて「ギターで歌う」ことに集中しているかのようだ。聴きやすさを重視したぶん、ギターアルバムとしては物足りない部分も出てくるのだけれど、私はこの作品どうにも好きだなあ。どの曲が特に、ということもなく、全体そのままがどこか自分の一部になっているように感じられる、お勧めのアルバムです。