野茂、ついに引退

万感の思いを勝手に抱きながら、昨日のニュースを見た。野茂が太平洋を渡った1995年は、1月に阪神淡路大地震が起き、3月には東京の地下鉄でサリンが撒かれ、年始から騒然とした世情だった。春以降の野茂の活躍に日本国内は大いに湧いたらしいが、僕はそれを知らない。その年の4月に僕もアメリカに渡り、冴えない修行生活を送っていたからだ。アメリカというのは、日本以上に大きな島国、国際感覚なんてない国なのだ。日本のことをテレビのニュースで見たのは、野茂の活躍と、麻原逮捕のときだけ。日本人のいない職場で働いていた僕は、言葉に苦しみ、考え方の違いに苦しみ、のたうちまわっていた。野茂の活躍を見るにつけ、なんて自分はしょぼいんだろうなどと思いながら生活をしていた気がする。

元々近鉄ファンだった僕にとっては、あの川崎球場でフル回転した同い年の阿波野が沈んでしまったあと、エースを乗っ取ってしまった野茂に対しては複雑な感情もあった。しかし、同じ年にアメリカに渡ってあれだけの活躍をした野茂には、「同期の誇り」みたいな感情はとても強かった。僕は二年で日本に戻ってきてしまい、その後何度かあったアメリカ復帰のチャンスも結局はスルーして、日本に居続けた。勝負しない自分に対して、どこか罪悪感を感じながら。一方の野茂は、西へ東へと球団を渡り歩きながらも、着実に成果を積み上げていった。やっぱりすごいやつだった。

野茂以上の成績を上げる日本人大リーガーっていうのは、これからいくらでも出てくるだろうと思う。しかし、新しい可能性を切り拓く人物は、きっとこれからは現れない。野茂は僕にとっては比較対象のない絶対的な存在だったし、これからもそうあり続けるだろう。長い間、お疲れ様でした。