「一本の音楽」 by 村田和人

一言で言えば、「旅に音楽を持ち歩くことは欠かせない」、といった内容の歌だ。この曲を聴くと痛切に思い出すのが、1995年の夏のことだ。僕はこのとき海外修行中で、この夏はイギリス南部のブライトンという町に滞在していた。ある週末、どうしても北の方に行ってみたくなり旅に出た。本当はスコットランドに足を踏み入れたかったのだけれど、夏は宿を取るのが大変だとのことで、イングランド最北端のDurhamという町で引き返してきた。Durhamの駅で南へ戻る列車を待っていたときに駅で聞いていたのがMDに入れておいたこの曲、イギリスらしからぬ暑い日だったのを痛烈に覚えている。

なんでこんなことを書いているかというと、僕も最近遅ればせながらiPod族の仲間入りしたのがきっかけだ。この曲は1983年の発売、日立マクセルのカセットテープのCMで使われていたので耳にすることは多かった。実家の弟がこの曲にどっぷりの時期を過ごしたこともあり、10年前の春に帰省したときにこの曲をMDに録音した。それが海外に出る直前のこと。今の若い人は、「一本の音楽」という言葉から何を思うだろう?メモリースティックだろうか?カセットのことだとは思わないのは確かだと思う。最近、旅(というか出張だけれど)に出ることが多い。この曲をiPodに入れて持ち歩こうと思う。カセット・MD・デジタルオーディオと、自分の関わったテクノロジーも何世代にも渡るようになってきたなと実感することで、自分の軌跡も感じてみようと思う。歌詞のように、「昨日までのわずらわしさ、破り捨ててしまえ」とはいかない現実とともに。

渡辺美里、”Tokyo” (1990)

このアルバムを聞いたとき、なにか転機が来たのかな、と感じた記憶がある。「サマータイムブルース」「第三京浜選んだ・・・」という歌詞が出てくるのだけど、たしか渡辺美里が免許取って、自分で運転しはじめた直後だったのではないかと思う。ささいなことなんだけど、高校時代をひきずった歌からちょっと抜けたのかな、と感じたのであった。でも、この曲は未だに聴けるいい曲だ。

あともう一曲挙げておくと“Boys kiss Girls”である。歌詞はどうにも馬鹿らしいのだが、村田和人らが参加したさびの部分のコーラスワークが素晴らしいのだ。短いフレーズなのだけれど、とても強烈。佐橋さんのギターもいいね。でも。岡村靖幸の色が強く出たアルバムで、そういう意味ではちと苦手。