ベスト盤ではあるが、シングルコレクションではない、渋めの選曲。ライナーノーツには、全曲に関して、太田裕美自身によるショートコメントがついている。
やはり、初期の松本隆作詞、筒美京平作曲の一連の作品は素晴らしい。当時私は小学生だったが、太田裕美ファンってのは大学生の世代に多かったような記憶がある。「青春のしおり」とか「茶いろの鞄」なんかを聴くと、その訳がわかる。こういう曲がいいと思われるようになったのは、やはり私自身がCSN&Yに染まり、「はっぴいえんど」に染まり、という経過を辿ったせいだろうか。
「雨だれ」、「夕焼け」、「九月の雨」などのシングルA面曲は、もちろんいい。しかし、やはりは決め手は「木綿のハンカチーフ」だろう。この一曲が無ければ、私はクラシックしか聴かない人のままで終わったかもしれない。
「恋愛遊戯」、「心象風景」、「煉瓦荘」、荒井由実詞・曲の「青い傘」、伊勢正三詞・曲の「君と歩いた青春」とかも名曲。これだけいい曲をもらっていながら、ビジネスとしては「歌謡曲」に軸足を置かざるを得なかったところが、太田裕美の中途半端さなのかもしれない。こういう曲を、昔の歌謡曲アレンジじゃなくて、今の音でアレンジし直して、まとめてアルバムにしてくれたら、即買ってしまうな。
しかし、こうやって改めて聴いてみると、高音域を力まずに抜いて出せる歌い手さんが好きな自分の趣味の原点が太田裕美にあることを認識させられる。自分の年齢も当時の3倍4倍ほどになっているのだが、変わらないものは変わらないのだね。