赤い鳥,「赤い鳥シングルズ」”(1999)

ハイファイセット以降のおしゃれっぽい音の作りよりは、Peter, Paul and Mary流れの関西フォークの残り香がする赤い鳥の方が個人的に好き。シングル収録曲を集めたこの一枚を取り上げてみる。

私と赤い鳥との遭遇は、高校時代に溯る。当時我が家ではNHK FMの「朝のポップス」を聴きながら朝飯を食う習慣があったのだが、「誰のために」「忘れていた朝」が続けて流れたことがあった。その衝撃は忘れられない。何がかっこよかったかって、アコースティックギターのバッキングなのだ。その当時はニューミュージックの時代だったのだが、大方はスリーフィンガーかコードカッティングかという単純なプレーばかりだった。それより10年も前にこんなかっこいいプレーがやられていたのかと、愕然としたのである。話しは女性ボーカルから大きく逸脱していくが、70年代前半のアコースティックギターには、北山修と加藤和彦の「あの素晴らしい愛をもう一度」とか、ガロとか、はっぴいえんどとか、風とか実はかなりかっこ良いものが多かったのである。アリスと松山千春には、日本のアコースティックギター文化を後退させた責任を痛切に感じて欲しいものだ。

で、潤子さんである。やっぱり、一言で言って声が美しい。特にあらゆる曲で歌い出しの部分がすごいのだ。「忘れていた朝」「わすれた」とか、「河」での「河よ」であるとか、ほんとうになにげないフレーズでの中音域の豊かさに、胸をぎゅっとつかまれる思いがする。これはほとんど生理的な問題だとも言えるのであるが・・・。「忘れていた朝」は、さびの部分でのコーラスワークは後のハイファイセットでの音の作りにつながっていくような面白いもので、ほんと名曲だと私は思う。

アレンジが古いので多少聞きにくい部分もあるし、「翼を下さい」が私が好きなバージョンとは違っていたなどという多少の不満があるにせよ、お勧めのアルバムである。