アンナ・バナナ, “High Dive” (1993)

きっかけは、NHKの「みんなの歌」だった。一時期この番組は、(歌詞に色恋沙汰が出て来ないって意味で)若いお母さん向けの曲も流していた。その頃流れたのがこのアルバム中の9曲目、ほんと何気ない昼下がりを歌った“smile”“ゆっくり過ぎて行く時間も拡がる通り。Afternoon 行き交う人もSmile。樹の葉を縫って踊る様に陽光を投げる”(作詞:吉田美奈子)といった歌詞なのだが、窓の外を行き交う人波をぼーっと見ているのが個人的に好きなので、この曲には大いに感情移入してしまった。「はっぴいえんど」の名曲「12月の雨の日」と同じような世界で面白い。あちらの方は、薄暗い通りを想起させるものではあるが。

アルバムのプロデューサーは、オリジナルラブの田島氏。この当時、邦楽にはあんまり興味を持てなかったのだが、上質なポップスが展開されているこの一枚だけは別だった。(これ以前のアンナバナナのアルバムってテクノ歌謡みたいなもので、あんまり面白いと思わない。)

他の曲では、1曲目の「太陽の季節」、6曲目の「裸になりたい」10曲目の“U & I Forever”あたりが、ゴージャスなポップスに仕上がっている。

The Indigo, “BLUE” (2000)

このバンドで一番気に入っているのが、大仕掛けじゃないんだけど、はっとさせられるアレンジ。アルバムを通して薄目の音が貫かれていて心地よい。一番の決め手は、開放弦の使い方が上手い市川裕一氏のアコースティックギターのコードカッティングで、見事にはまってしまった。国産ロック黎明期のガロ、一時期渡辺美里のバックをしていた佐橋佳幸氏以来久々に出会ったいい音って感じがする。音が薄めだと、必然的にベースラインとかも気になるんだけれど、高木権一氏のベースもいいんだよね。

さて、そんな中での田岡美樹の歌であるが、実にいいとこ突いていると思う。最近女性ボーカルが入っているユニットっていうのはあまたあるけれど、どうもそういう場合の女性ボーカルって「歌わされてる」感じがしてならない。でも、田岡美樹の場合は、完全に自分の世界にしちゃって、自由に歌ってる気がする。わたし的な一番のポイントは、高音域絶唱型じゃないというところ。声質的には、売れまくってるaikoとかに近いかな?

で、このアルバムなんだけれども、外れのない佳曲ぞろい。わたし的に一押しなのが、2曲目の「きかせて」。コード進行が拡がり感をうまく出してるんだなあ。“教えてよ”という単純な歌詞の一節にころっといってしまった。

「大切なもの」は、聞いていてふっと自分の東京での20代を思い出してしまった歌。“limiter”は、エレキギターのエフェクターの音質といい、ハモンドといい、わたし的に一番はまってしまう70年代の後半っぽい音でやられちまいました。“take away”もそんな感じかな?

その他、“blue”“if”「口紅」なんかは、昔のフォークっぽくもあるけれども、確実に現在の音の造りで、うーん絶妙だ。わけのわからん英単語を変なアクセントで入れ込みすぎる時代にあって、日本語を大切にして歌を作ってるところにとっても共感してしまう。これって「はっぴいえんど」的な思考回路?