LANPA, 「水の上のPEDESTRIAN」 (1990)

平松八千代さんが在籍していた、いわゆる「イカ天バンド」の一つ。あの番組としては異色な大人系バンドだった。最も印象に残っていたのは、タイトル曲でもある、2. 「水の上のPEDESTRIAN」。CDを当時保有していたわけでもなく、ほんの数回しか聴いたことがなかったにも関わらず、このメロディーの運びは覚えていた。あらためてCDで聴いてみると、アレンジが泣きそうなほどつまらないのだけれど。他には、1. “LOCH SENU”なんかを聴くと、なんかPat Methenyっぽいなあ、ということがいきなり頭をよぎる。彼がこの曲で求めた音の拡がり感がメセニーっぽいものだったんだと思うのだけれど。あとは、10, 「あの時の私達は」あたりもいい曲かな、と思う。これにはFleetwood Macあたりが思い起こされるかなあ。正直なところ、全体的にはそれほど面白いアルバムではありませんでした。

しかし、八千代さんのボーカルは、この作品ではまだちょっと不安定が感じられる。Soyの時代に向けて歌唱力がすごくアップしたんだな、と感嘆。

平松八千代、”Travelling Soul” (2004)

長いキャリアの中でも、これが初ソロ作ということになる。あまり店頭では遭遇せず、5店目くらいの横浜西口のHMVでようやく購入した。最初の正直な感想は、「微妙なアルバムだな」であった。正直、Soy時代の八千代さんを知らなければ、おそらく購入していなかったと思う。どうもアルバム全体を通じて突き抜けきらない感じがするのは何故だろう、と随分考えた。曲がいまいちなのか、アレンジの問題なのか、歌い方なのか、声質の変化なのか、録り方の問題なのか、と。ヒントになったのは、「抱きしめたいのに」とか“Rescue Me”だった。いわゆる、「英語歌い」というやつか、日本語として響いてこないのだ。また、声域の広さを過剰に意識したのか、ワンフレーズ中でかなり音域の飛ぶ曲がかなりある。八千代さんの場合、シームレスに全部の音域をカバーするのではなく、それぞれの音域をそれぞれちょっと違った歌い方でカバーするタイプなので、音域の飛ぶフレーズはぶち切れに響いてしまう感がある。

そういう点から見ると一番出来の良い曲は、桑田佳祐の“Journey”のカバーではないかと思う。長めの文節からなる歌詞と、ゆったりしたメロディーの動きが八千代さんには合っているように思う。「これは日本語か?」とデビュー当時物議を醸した桑田さんの曲だというのが皮肉なところだ。

などと、ちょっと不満を持ちつつ、購入後数日を過ぎると、“You are like the sunshine”のメロディーを口ずさんでいる自分に気づく。“Back to me”なんかも、Love Psychedelicoっぽいなと思うけど、好きな曲だ。“Love is blue”あたりは、Indigoっぽくもあるが、やはり良い曲。何だかんだと言いながら、結局はまってしまっている自分。やはり八千代さんは素晴らしいのです。

Soy, “Soy” (1998)

Soyの一枚目。二枚目を先に聴いたのでそのインパクトの方が強いのだが、こちらもなかなかのアルバム。

しょっぱなの“Sugar Days ~あの日~”は、ペダルスチールなんかも入った初期のEaglesを思い起こさせる上質のポップス。続く「真夏へ続く道」は、ちょっとOrleans風かな。生ギターのからみも、とても良し。「約束」は、八千代さんのボーカルが冴え渡る佳曲。「夕焼け前」も、70年代っぽい音で好き。“Lemonade”は、ホーンアレンジやフレージングがSteely Danっぽい。いいところ突いてくるなあ。

「一週間」は、生ギターの絡みを軸にすえた薄い音の作りで、八千代さんのボーカル、バックのコーラスワークともに冴えている。締めの「Going Home~家に帰ろう~」もまたいい曲。アルバムを通して、とにかく私好みの音で文句なし、って感じだ。

Soy, “Soy2” (2000)

きっと20年以上経っても、時折CDキャビネットから引きずり出して聴いてしまうアルバムだろう。そう確信させられる一枚。西海岸っぽいアコースティックロックとアメリカンポップスが絶妙に混じりあった感じが心地よい。

彼らを知ったきっかけは、ある日ふと気になって「佐橋佳之」のキーワードでインターネット検索をかけてみたことだった。佐橋氏は言うまでもなく渡辺美里の初期作品やライブで中心的な役割を果たしていた、アコースティックな音が偉くかっこよかったギタリストである。探し当てたサイトにはこうあった。「現在『山弦』というギターユニットと、それにさらに元ランパの平松八千代を加えた”Soy”というユニットでの活動をしている」。ランパ・・・「イカ天」に出ていたなあ。あのボーカルの落ち着いた声は好きだった。10年以上経過して私の好みも変り、あの声質はいっそう好きになっている。そういう思いが瞬時に頭をかけめぐり、このアルバムはメンツを聞いた時点で(実際に聴いたことがないにも関わらず)「買い」候補の筆頭へと躍り出したのである。

で金沢郊外のCD屋で探し当てたのが彼らの二枚目にあたる”Soy2″。アコギ二本のからみから始まる一曲目「おしえて」から、すっかり狂喜乱舞状態に陥ってしまう。「リベルテ」は、Steven Stillsっぽい音作りにこれまた狂喜乱舞。「恋に似ている」は、とてもきれいな高音域が聴ける。さび前の曲想は大貫妙子っぽいなかな?「嘘は罪」では、中音域が生理的に気持ちいい。いまどきのお子様シンガー達にはこういう世界は作れないだろうなあ。「ひなぎく」“SUBWAY”「遠い日」は80年代中期のEPOのスローな曲っぽい。「雪降る街でノースリーブ」EPOのポップス路線時代の曲っぽい。そういえば佐橋氏って高校はEPOと同窓で、業界デビューはEPOのレコーディングだった筈、と思い出してしまった。「EPOっぽくて良い」と私が書いていると受け取られると、それはちょっと不本意。声質では八千代さんが上をいっていると思うし、テクニック的にもまったく遜色ない。

アコースティックギターフリークの方々にもこのアルバムはとてもお勧め。計算しつくされたアコースティックギターワークと、声質最高の女性ボーカル。こんなグループがあればいいなと思っていたのが実現されてしまうなんて、邦楽もなかなか捨てたものでないなと思った次第。

平松八千代さんってどんな人?

「イカ天」では異色の子供受けしないバンド「ランパ」、のボーカルだった人。ギターユニット「山弦」の佐橋佳之・小倉博和両氏と組んでのSOYというユニットを経て、現在はソロ活動中。(Soyとは佐橋・小倉・八千代の頭文字を並べた安易なネーミング。その発想ばかりか音作りまでもがCSN&Yを彷彿させる。)最近ではむしろ。桑田佳祐のバックボーカルとして知られているかもしれない。

八千代さんの声質は、どことなくEPOっぽく、どことなく山本潤子さんっぽい。高音域がすごくきれい。でも、個人的には柔らかさと硬さの二面性がある感じの中音域の響きが好き。以前の事務所のページによると、彼女のお気に入りのアルバムは、Joni Mitchell“Shadows and light” 、シンガーは、Carpenters, Sarah McLachalanJoni Mitchell, プロデューサーはPat Methenyだそうで、こんなバックグラウンドを持つ人を好きにならないはずがない。