(たぶん)25年経過

5年間一度も記事を書くことなく過ぎました。サイトを始めて25年になります。自分もアラ還世代に入り音楽を聞く時間も減ってきてたところで、新型コロナによるリモートワーク導入。通勤時間が減ると音楽聴く時間も減るのです。年末になり、筒美京平トリビュートな番組が多いのですが、自分の人生のターニングポイントは「木綿のハンカチーフ」だったなと痛切に思うのでありました。

太田裕美、「茶いろの鞄」 (1976)

B面ネタ続きになりますが、「赤いハイヒール」のB面曲だった「茶いろの鞄」を取り上げてみます。

「赤いハイヒール」は「木綿のハンカチーフ」の次作として発売された作品です。「木綿のハンカチーフ」では上京者は男性・地方に留まったのは女性というのが語り部の役割分担でしたが、「赤いハイヒール」ではこの性別が逆転します。二匹目のどじょう作戦が明確な曲で、余勢を駆ってそれなりに売れましたが、今聴いてみると冴えのない曲です。

それに対して、このB面曲はなかなかすごい。ソフィスティケイトされた運びのメロディーの運びは、この時期の歌謡曲とは明らかに一線を画する秀逸なものです。コード進行には、ジャズの要素がちょっと入ってるでしょうか?

たとえば「木綿のハンカチーフ」でのストリングなどのような、いかにも歌謡曲歌謡曲したアレンジは今となっては堪え難いのですが、この曲のアレンジは、なんとか現在でも我慢出来る程度の仕上がりになっています。イントロや間奏での、フルートのフレージングはかなり自由で、この曲の雰囲気をかなり決定づけています。荒井由実の「あの日に帰りたい」とか、丸山圭子の「どうぞこのまま」といった、ボサノバっぽい曲が流行った時期に重なる、というのもポイントかもしれません。

一方、不良ロック少年と思いを寄せる少女、そんな時代を振り返るという歌詞は「青春のしおり」あたりと共通するものなのですが、松本隆さんの定番ワード「路面電車」が登場するあたり、それはまぎれもなく風街ワールドです。ディープな地方生活経験のない松本さんが書く田舎は、どこか薄い気がします。やはり、都会に徹した詞にこそ松本さんの真価があるように思います。

そして、裕美さんの歌です。彼女は時として、元気に歌いすぎて曲をダメにしてしまうという失敗をしでかしていたように思います。特にそれは高音域を張りすぎてしまう、という点に現れるのですが、この曲ではうまくファルセットで抜いて、いい意味での力の抜けた雰囲気を醸し出しています。

なので、実はこの曲が太田裕美の最高傑作、というのが今日の私の結論です。

YouTubeに音ありました↓

「情熱大陸」〜松本隆さん編

80年代初頭、僕は中森明菜・河合奈保子派で松田聖子はキライな存在だった。しかし30年近く経ったいま、むしろ松田聖子の曲の多くをはっきり覚えている。「顔や存在は覚えているけど、歌の中身まで思い出せない」アイドルと、「むしろ歌を覚えている」アイドルとが分かれてくる、その要因はまぎれもなく曲の力だ。この一連の作品は、作詞家松本隆と作曲家筒見京平コンビによるもの。この組み合わせが最初に飛ばしたヒットは、太田裕美さんの「木綿のハンカチーフ」であるのもよく知られた事実だ。

3/15(sun)放送のTBS「情熱大陸」が、この松本隆さんを取り上げていた。動く松本隆さんをこんなに長い時間見たのははじめてで非常に新鮮だった。「不自然なことは絶対にしない」という作詞にあたっての姿勢が徹底されていて、むしろ50代後半になってその姿勢を貫けることの方が不自然にも思え、面白いなあと思いながら見ていた。

番組での取り上げ方では「不世出のラブソング書き」みたいなポイントが重視されてたんだけど、僕はむしろラブソングではない、はっぴいえんど時代の松本さんの詞が好きだ。「風街」系の情景描写、あれは絶対他の人にはできないもので、あの世界を知るか知らないかで、東京という街の捉え方ががらっと変わってしまうような代物だ。鈴木さんがクスリで捕まってしまいはっぴいえんどのCDが販売中止になったりと、ちょっとイヤな流れが最近あったけれど、ちゃんとはっぴいえんど時代についても番組中で言及されたのはうれしかったな。

ところで、wikiを読んでみると、松本さんは青南小学校卒業なのだね。学生時代、青山の路地裏の学習塾でバイトしていて、ここの生徒や卒業生を何人か教えたことを思い出した。僕が東京に来た80年代前半には、駄菓子屋も路面電車も消えていたけど、当時の光景はやはり僕にとっての風街だ。

太田裕美、”The Best”(1997)

ベスト盤ではあるが、シングルコレクションではない、渋めの選曲。ライナーノーツには、全曲に関して、太田裕美自身によるショートコメントがついている。

やはり、初期の松本隆作詞、筒美京平作曲の一連の作品は素晴らしい。当時私は小学生だったが、太田裕美ファンってのは大学生の世代に多かったような記憶がある。「青春のしおり」とか「茶いろの鞄」なんかを聴くと、その訳がわかる。こういう曲がいいと思われるようになったのは、やはり私自身がCSN&Yに染まり、「はっぴいえんど」に染まり、という経過を辿ったせいだろうか。

「雨だれ」「夕焼け」「九月の雨」などのシングルA面曲は、もちろんいい。しかし、やはりは決め手は「木綿のハンカチーフ」だろう。この一曲が無ければ、私はクラシックしか聴かない人のままで終わったかもしれない。

「恋愛遊戯」「心象風景」「煉瓦荘」、荒井由実詞・曲の「青い傘」、伊勢正三詞・曲の「君と歩いた青春」とかも名曲。これだけいい曲をもらっていながら、ビジネスとしては「歌謡曲」に軸足を置かざるを得なかったところが、太田裕美の中途半端さなのかもしれない。こういう曲を、昔の歌謡曲アレンジじゃなくて、今の音でアレンジし直して、まとめてアルバムにしてくれたら、即買ってしまうな。

しかし、こうやって改めて聴いてみると、高音域を力まずに抜いて出せる歌い手さんが好きな自分の趣味の原点が太田裕美にあることを認識させられる。自分の年齢も当時の3倍4倍ほどになっているのだが、変わらないものは変わらないのだね。