鈴木祥子ライブ@Saravah東京(’12/12/15)

鈴木祥子さんを聴き始めて、7-8年?一度もライブに行っていなかったのだけれど、今日ついに実現。クリスマス・アルバム発売にちなみ、10年ぶりとなるクリスマスライブだったそう。100人程度の小さなキャパのハコだったのだが、中年男性がうごめく異様な光景?まあ、自分も立派にその範疇です。リラックスした雰囲気なのは良いのですが、ちょっと緊張感の無さも感じられたのはちょっと残念。

で、祥子さんです。やっぱりすごかったですね。特にピアノ弾き語り曲、ピアノのタッチが重いのです。”Little love”とか「愛はいつも」のような初期作品は、当時の声、当時のアレンジだとあまり魅力的だと感じないのですが、これを今の声で、ピアノ弾き語りでやられたりすると、もう参ってしまいました。

あとは、「鈴木祥子の作曲講座」も面白かった。ベースラインが半音進行になるのは教会音楽に多く、これはオルガンではベース音をペダルで奏でていただろうとの説。洋楽にはこの影響を受けたものが多く、S&Gの”Bridge over troubled water”や、Carole Kingの”Locomotion”などを題材に取りながら説明してくれたのでした。

クリスマス・アルバムからの曲もどどっとやっていたようですが、ワタシは多分買いません。オリジナル・アルバムで、がっつり勝負して欲しいなと思います。次の快作が出た頃に、また聞きに行きたいですね。

鈴木祥子、「優しい雨」(1993)

作詞が小泉今日子、作曲が鈴木祥子さん。小泉今日子が歌ったバージョンは、1993年のTBS系ドラマ「愛するということ」の主題歌として使われ、オリコンの最高位は2位だったようだ。祥子さんも直後のオリジナルアルバム”Radiogenic” (1993)にこの曲を収録している。ギター一本がバックなんだけれど、ちょっとテンポが遅すぎかなあ。

しかししかし、ライブでピアノ弾き語りでこの曲を歌っているYouTube映像をは、ぞくっと来るような素晴らしいものなので、皆さんにもこの感動を是非。ライブ盤”I was there, I’m here”で聴けるのも、ほぼこのバージョンです。

鈴木祥子、「鈴木祥子」(2006)

デビュー18年目にしてのセルフタイトルアルバムで、40歳を過ぎての初作品。アルバムのために曲を書く、というのではなく、書いた曲をライブでやっていって、いいものをアルバムとして出す、というスタイルを取ったらしい。今までのアルバムは、一枚一枚の中でもバラエティ豊かというか、すごく音楽性の幅が広いことをみせつけているかのような感もあり、それは時として器用貧乏っぽい印象を与えることもあったのだけれど、本作は至ってシンプル。けだるさというか、全力疾走から一息入れたような感じを受けるし、それが決してマイナスに作用していない、等身大の姿を映し出しているかのようなところが非常に好きだ。

2.“Love is a sweet harmony”や4. “Passion”は好きだなあ。洋楽を消化しきった人じゃないと、絶対に書けない曲だ。3. 「何がしたいの?」は、「見失い感」とでも書いておきましょうか、壮絶な曲だ。ぐさっと来る一曲。1. 「愛の名前」、5. 「契約 (スペルバインド)」、8.「忘却」もいい曲です。10. “Blondie”も、すさまじさを感じる曲。11. 「道」は、ピアノのイントロがもろにCarole Kingの”So far away”ですな。一方、6.「ラジオのように」の再演・再収録は、ちょっと意味がわからない。確かにこのテイクの方が僕としては好きなのだけれども、あえてオリジナル盤に再収録するほどの出色でもないかな、というのが個人的な感想。

何曲かでエレキバイオリンを弾いているROVOの勝井祐二さんの動向には個人的に興味があった。彼は札幌の高校の一期下で、自主制作盤やらライブやらの告知を校内に張りまくる有名人だったので、直接話した記憶はないけれど知っていた。「こんな田舎でやってても限界あるだろうに」などと当時は思っていたのだが、本当に影響力のあるミュージシャンになってしまったんだなと感動。80年代初頭の売れたロックのスタイルを消化しきった感のある祥子さんと、その時期には売れ線のロックなんてまるで聴いていそうになかった勝井さんが一緒に仕事して、壮絶な一枚を仕上げてるところが、ある意味とても面白いなあ。

追記: 「忘却」のYouTube動画を発見。アルバム収録のバージョンとは異なるアコギ弾き語りバージョンですが、その凄まじさはわかっていただけると思います。しかし、アコギがNeil Youngっぽくて面白い。

鈴木祥子、「私小説」(1998)

1990年代後半の祥子さんは、ワタシ的には一番ツボにはまる時期なのです。しかし、曲によって好き嫌いが大きく分かれるこの一枚は、非常に微妙な作品ではあります。
このアルバムで一番好きな曲は、2.「プリヴェ」。後年のライブ盤”I was there, I’m here”でのピアノ弾き語りバージョンが素晴らしいのですが、70年代SSWのテイストを出してるこのテイクも素晴らしい。
1.「完全な愛」は、初期ガールズポッポス路線の香りを残した一曲でちょっとはじけきらないでしょうか?3.「だまってそばにいる女」あたりは、EaglesとかNeil Youngとか、70年代の西海岸アメリカンロックっぽい音の作りが面白い。クロウハンマーっぽいバンジョーの使い方は、ちょっとワタシ的には許し難いですけど。7.「依存と支配」は、ある意味問題作で、イカレきった歌詞が大好き、でも音が大嫌いという本当に微妙な一曲です。8.「ただの恋だから」はカーペンターズっぽく仕上げた曲ですが、やはり祥子さん上手いなあ、と納得してしまう曲です。10.「日記」はミディアムテンポのロックしてて、これまたいいんですよねえ。

鈴木祥子、”Long Long Way Home” (1990)

4枚目となる1990年作品。3.“Little Love”は、EPOあたりに通じる80年代邦楽ポップスくささが強く出てる曲。このサビはどこかで聴いたことがあると必死に考えるんだけど思い出せず、ここ数日悶絶中。このアルバムでは一番しっくりくる曲だが、これが本当の彼女自身の色かというと、それは違うかもしれない。4. 「水の中の月」も80年代っぽい拡がりのある音作りで好きだな。5. “Down by riverは、Neil Youngの名曲と同名の一曲。コード進行やアレンジの一部にもその影響が感じられる気が。好きな曲です。1. 「光の駅」、6. 「夏のまぼろし」、7. 「あの空に帰ろう」、10. 「どこにもかえらない」あたりもよい。強烈な曲があるわけでもないが、私的には聴きやすい80年代の音。好きな一枚というよりは、嫌いとは言いにくい一枚、って感じでしょうか。

鈴木祥子、”Radiogenic” (1993)

初期も終わりの時期の作品と位置づけられるのだろうか?90年代後半の作品から入った僕としては、僕のイメージする「鈴木祥子らしさ」がないから、ちょっと物足りないところがある。80年代の上質なポップスが想起される音なんだけど、おそらく彼女でなくても作れてしまう音なんじゃないかと思えてしまうところが、のめりこめない最大の原因かな。

それでも、“Goodbye, my friend”「両手いっぱい」“my love, my love”あたりのアルバム後半の曲は好きだ。ギターが小倉・佐橋の山弦コンビなんだよね。懐かしのCorey Hartと共演している“Original Aim”も面白いな。小泉今日子(作詞も小泉今日子)が歌ってヒットした「優しい雨」は、ギター一本がバックなんだけれど、ちょっとテンポが遅すぎかなあ。

鈴木祥子、 “Candy Apple Red” (1997)

最初に買った鈴木祥子さんのアルバムが、この”Candy Apple Road”と、「あたらしい愛の詩」 (1999)の二枚だった。もう20年を越えるキャリアの中で見れば、初期のJ-pop女性シンガー路線から、自身の洋楽体験を反映したロック色の強い路線へシフトした時期の作品群。初期ファンの期待を裏切る作品への反響に、自分自身がかなり戸惑ったことを、2009年のライブに先立ったインタビューで語っている。

5年くらい前から祥子さんを聴き始めて僕は、明らかに遅れてきたファンなのだが、このアルバムは本当にすごいんじゃないかという思いが強まりつつある。それは、自分のリスニング傾向を公開しちゃってるlast.fmの個人的なアルバムチャートでもはっきり出てしまっているわけで。

特に印象的な曲がいくつかある。まずは、4. 「恋のショットガン(懲りない二人)」。「女性らしい歌詞だな」と思って聴いていると、S気全開の“もう降参だと言いなさい”というサビに流れ込むという思わぬ歌詞の展開が面白い。そして、音はどうしようもなく、ロックなのだ。個人的には、この曲でのギターが好きなのだが、弾いているのは当時の旦那の菅原弘昭さん。

9.“Shelter”は、何とも言えない澱みがある曲だ。こういう曲を書き切れる、演り切れる、というのが、祥子さんのスゴミなのだと思う。

11. “Angel”も大好きな曲。ポップなメロディーと自然体の歌詞ながら、とても大事なことを伝えているように思える。作詞は小倉めぐみさん。しかし,本人が書いていたとしてもまったく違和感がないその歌詞は、今に至るまで続く「なにかを見失ったまま、さまよいながら、でも進み続けている」鈴木祥子ワールドそのままだからと僕は感じる。あなたの”胸の中の天使”は、あなたにどう生きろとメッセージを送っていますか?

12.“River’s end”は、のちのライブ盤のMCで、自分が生まれ育った下町のことを歌ったと語った曲。忘れるために生きているというくだりも、のちの「忘却」あたりにつながる世界だ。

その他、3. “Sulky Cat Strut”あたりも、決して好きでは曲調でないにも関わらず、「器用だなあ」と思ってしまう。単純なようで実はメロディーの作りが面白いのは8.「君の赤いシャツが」。13.「ぼくたちの旅」は、珍しく前向きな歌詞なんだけど、曲のキレがいいのでやはり大好きな曲。

そしてそして、この人の天才ぶりを示す一曲が7. 「3月のせい」だと思う。私の拙い言葉をどう書き連ねようとこの壮絶な世界を説明できない。ぜひあなた自身が聴いてみて下さい。

鈴木祥子、「あたらしい愛の詩」 (1999)

本作は、80年代洋楽へのオマージュみたいなキャッチコピーがついていたと思うのだけれど、なるほどそれらしい仕上がりだ。1. 「この愛を」を書いたときに彼女の頭にあったのはBruce Hornsbyの”The way it is”だったに違いない。“二人はとても似ていたので恋することは簡単でした”から始まる歌詞も絶妙で、実らなかった若き日の自分の恋を思い出すのだった。
もう一曲佳曲を挙げておくと5. 「愛は甘くない」だろう。メロディーの運びも佐橋氏のギターも自然で心地よく、なにより文体を変えて“愛は甘くないんである”と歌詞を締め括るセンスが大好き。必聴。

「この愛を」のライブ画像@YouTube↓