山本潤子(新居潤子)さんって、どんな人?

商業的に成功したフォークグループの先駈け的な存在である「赤い鳥」でボーカルを担当していた。ワタシ的には、赤い鳥時代の歌が最高だと思う。赤い鳥解散後は、荒井由実楽曲を卓越したコーラスアレンジで演じてヒットを連発したHi-fi setで活躍。私の独断と偏見に満ちた日本人女性ボーカル声質ランキングでは、だんとつの一位である。「は?」という人でも、「翼を下さい」や「フィーリング」を歌っていた人だと言えば心当たりがあるのでは?現在はソロ活動を継続しており、NHK-BSのフォーク番組などでもよく見かける。

山本潤子オフィシャルサイト

山本潤子、 “Songs” (2007)

2010/08/10 渋谷TSUTAYA

元赤い鳥・ハイファイセットの山本潤子さんがJ-pop(この表現は非常にキライなのだが)の名曲をカバーするという企画のアルバム。潤子さんは、どう考えても史上最強の日本人女性ボーカリストの一人だし、好きなんですよ。上手いし、説得力もあるし、声もやはり素晴らしい。

でもこの一枚の存在意義がどうしてもわからない。カラオケが上手いおねーさんが歌っているのと、どう違うのかがわからない。原曲を越えていくようななにかとか、「今、ここで新しいものを生み出そう」という心意気みたいなものが感じられない。

でも、amazonのレビューなんかでは、結構好評なのです。多分いいアルバムで、ワタシがオーディエンスの枠内に入ってないというだけなんでしょう。

Song for Memories, “Song for Memories” (2000)

鈴木康博(元オフコース)・山本潤子(元赤い鳥、ハイファイセット)・細坪基佳(元ふきのとう)の三人によるユニット。これが1970年代後半に実現していたら、CSN&Y並みのスーパーグループになったことでありましょう。60-70年代のフォーク・ニューミュージックの名曲をカバーするという趣向のライブアルバム。完全に後ろ向きなコンセプトではあるのだけれど、非常に楽しめます。

泉谷しげるのフォーク時代の名曲A-2 「春夏秋冬」、PPMのA-4 “Puff”、GAROのファーストに収録されている名曲 A-7 「地球はメリーゴーランド」、荒井由実のA-9 「あの日にかえりたい」B-5 「中央フリーウェイ」、カーペンターズのB-7 「YESTERDAY ONCE MORE」、ふきのとうのB-8 「白い冬」、オフコースのB-9 「さよなら」、赤い鳥のB-10 「翼をください」のあたりは、まさに自分の中学?高校時代のリスナーとしての嗜好にびたりと一致するのだ。しかし、やっぱり潤子さんの歌は素晴らしいね。

荒井由実、ハイファイセット 「卒業写真」

例年この時期になると、「卒業写真」のキーワードから検索して、このサイトを訪れる人が急増する。ハイファイセットのデビュー盤として発売されたのが1975年2月5日、ヒットから間が浅かったぼくらの時代はそんな事態にはなっていなかったのだけれど、30年以上の時を経て学校教育では定番の合唱曲なんかにもなってしまったようだ。荒井由実バージョンは、バックのアレンジが秀逸。ハイファイセットバージョンは、やはり新居潤子(山本潤子)さんのボーカルが素晴らしい。

『あのころの生き方をあなたは忘れないで』というフレーズがこの曲にある。今日の午後、中学時代の同級生の訃報を伝えるメールが回ってきてた。全国紙の「おくやみ」欄に訃報が出るまでに有名人になった彼は、他の同級生たちのような収まり方とはほど遠いところで、決して平坦ではない人生を太く短く駆け抜け切ってしまった感がある。札幌を離れてから会ったのは一度だけ、新宿で集まって飲んだのは7-8年前だったろうか。彼の「あの頃の生き方」と、現在がどうつながっていたのだろう、とふと考え込む。彼の冥福を祈りたい。

山本潤子、 “The Best” (1998)

1998年に発売されたソロ作で、過去のヒット曲のセルフカバーを集めたベスト盤となっている。「フィーリング」「中央フリーウェイ」「海を見ていた午後」「卒業写真」「翼をください」などなどと豪華なラインナップ。

オリジナルの方が良かったんじゃないの?と思う曲が多いのだけれど、いい出来だなあ、と思うのが、「海を見ていた午後」。山手のドルフィンから見る海の景色がくっきり思い出される。「卒業写真」も柔らかい声とバックコーラスのアレンジが心地よい。「緑の季節」「風船」もいいね。「翼をください」のソロバイオリンを軸としたアレンジは、Celine Dion (with Kryzler & Kompany)の“Fly”(鈴木保奈美、佐藤浩市、岸谷五朗、鈴木京香が揃い踏みしたフジのドラマ「恋人よ」の主題歌)を意識したものではないかと思われてならない。バイオリンを弾いているのが、葉加瀬太郎じゃないかとクレジットを確認してしまった私。答えは、加藤高志さんという方だったが。

Hi-Fi set、”The Best Hi-Fi set”(1998)

これもベスト盤。一曲目の「卒業写真」はライブ録音バージョン。やはり不朽の名曲だ。「土曜の夜は羽田に来るの」も、いい曲だ。この曲が出た頃の羽田は、沖合移転前で、まだ国際空港だったんだろうな。旧羽田空港は、帰省などで何十回と使った空港だ。いろんな事が思い出される。このあたりの荒井由実提供の楽曲は、やはり(本人の歌で聞くより)いいなあ。「中央フリーウェイ」がこのアルバムに収録されていないのは残念。

「フィーリング」はHi-Fi setの最大のヒット曲。売れてた当時はピンと来なかったが、今聞くとやはりいい曲だなと思う。原曲がもちろんいいのであるが。“boy friend”「たった一枚のフォトグラフ」の潤子さんのボーカルもいいな。

しかし、70年代に荒井由美の楽曲を洗練されたアレンジで歌い、時代の先を行ったHi-Fi setではあるが、他に優れた邦楽ポップスミュージシャンを輩出した80年代のシーンにあっては、やはりパンチ不足だったような気がする。今、鈴木・細坪とやってるユニットみたいに薄い音作りの方が、潤子さんの歌が生きるんだな、とこのアルバムを聴いて思った。

赤い鳥,「赤い鳥シングルズ」”(1999)

ハイファイセット以降のおしゃれっぽい音の作りよりは、Peter, Paul and Mary流れの関西フォークの残り香がする赤い鳥の方が個人的に好き。シングル収録曲を集めたこの一枚を取り上げてみる。

私と赤い鳥との遭遇は、高校時代に溯る。当時我が家ではNHK FMの「朝のポップス」を聴きながら朝飯を食う習慣があったのだが、「誰のために」「忘れていた朝」が続けて流れたことがあった。その衝撃は忘れられない。何がかっこよかったかって、アコースティックギターのバッキングなのだ。その当時はニューミュージックの時代だったのだが、大方はスリーフィンガーかコードカッティングかという単純なプレーばかりだった。それより10年も前にこんなかっこいいプレーがやられていたのかと、愕然としたのである。話しは女性ボーカルから大きく逸脱していくが、70年代前半のアコースティックギターには、北山修と加藤和彦の「あの素晴らしい愛をもう一度」とか、ガロとか、はっぴいえんどとか、風とか実はかなりかっこ良いものが多かったのである。アリスと松山千春には、日本のアコースティックギター文化を後退させた責任を痛切に感じて欲しいものだ。

で、潤子さんである。やっぱり、一言で言って声が美しい。特にあらゆる曲で歌い出しの部分がすごいのだ。「忘れていた朝」「わすれた」とか、「河」での「河よ」であるとか、ほんとうになにげないフレーズでの中音域の豊かさに、胸をぎゅっとつかまれる思いがする。これはほとんど生理的な問題だとも言えるのであるが・・・。「忘れていた朝」は、さびの部分でのコーラスワークは後のハイファイセットでの音の作りにつながっていくような面白いもので、ほんと名曲だと私は思う。

アレンジが古いので多少聞きにくい部分もあるし、「翼を下さい」が私が好きなバージョンとは違っていたなどという多少の不満があるにせよ、お勧めのアルバムである。